ルビスコくん空を飛ぶ

博士学生(D1)の日記です.

『個人的な体験』

大江健三郎の『個人的な体験』を読みました。 

個人的な体験 (新潮文庫 お 9-10)

個人的な体験 (新潮文庫 お 9-10)

 

 あらすじ

物語の主人公、「鳥(バード;あだ名)」は、妻の出産の知らせを聞いて病院に行くと、新生児の脳に異常があることがわかった。もともとバードはアフリカへの自由な旅行を夢見ており、我が子が産後に死なずに障害を持って育つことをなによりも恐れた。その事実から目を背けようと、義父からもらったウイスキーを持って火見子という女性を訪ね、酒と性に溺れた日々を送ってしまう。酒のせいで職も失い、ついには我が子の手術を断り退院させ、別の病院の医者に頼んでその病院で衰弱死させようとさえした。が、結局思いとどまって子供と一緒に生きていく決心をした、という物語です。

 

この小説の中で一つの問題となっているのが自己欺瞞です。

自己欺瞞とは、「自分に言い訳をして自分を納得させること、自分を正当化すること」です。バードは義父からウイスキーを受け取るときも、火見子の家にいくときも、子供が異常をもって生まれたことを言い訳に、自分はこんなにひどい目にあっているのだからこれくらい許されるはずだ、子供の死を願っても仕方ないはずだと、とにかく自己正当化のために現実から目を背けてしまいます。

自己欺瞞は、何もこの小説のような特殊な状況に置かれた人特有のものではありません。とても身近なものです。例えば、自分が受験に落ちたのは学校や塾の先生が悪いのだ、と考えてしまうのも自己欺瞞です。本当は、自分に実力がなかったことは頭のどこかではわかっている場合もありますが、その事実をありのままに受け入れることができないために人のせいにしてしまう。自分は悪くないんだ、責任は自分にはないんだ、これで面目が保てるんだ、という思考に陥ってしまうと、客観的な視点は失われます。

自己欺瞞の怖いところは、その状態になっていることに自分で気づくのが難しいところです。どうすればいち早くそれに気づくことができるか、明確な解決法はないと思います。あるとすれば、他人と話すことでしょうか。この小説では、バードは火見子、その女友達、菊比古という他者と会い、話をするうちに現実を受け入れるような心境に変わっていきました(作中では突然決心をしたように書かれていましたが、彼らの言葉がバードを少しずつ変えていったのだと思います)。

自分の話を聞いてくれる、自分のために意見をくれる人たちは大切にしなければいけませんね。